京都大学理系
2011
年数学入試問題
[1]
(1)
箱の中に、
1
から
9
までの番号を
1
つずつ書いた
9
枚のカードが入っている。ただし、異なるカードには異なる番号が書かれているものとする。この箱から
2
枚のカードを同時に選び、小さい方の数を
X
とする。これらのカードを箱に戻して、再び
2
枚のカードを同時に選び、小さい方の数を
Y
とする。
である確率を求めよ。
(2)
定積分
を求めよ。
[
解答へ
]
[2]
a
,
b
,
c
を実数とし、
O
を原点とする座標平面上において、行列
によって表される
1
次変換を
T
とする。この
1
次変換
T
が
2
つの条件
(i)
点
を点
に移す
(ii)
点
と点
が
T
によって点
A
,
B
にそれぞれ移るとき、△
OAB
の面積が
である
を満たすとき、
a
,
b
,
c
を求めよ。
[
解答へ
]
[3]
xy
平面上で、
のグラフと
のグラフによって囲まれる図形の面積を求めよ。
[
解答へ
]
[4]
n
は
2
以上の整数であり、
(
)
であるとき、不等式
が成立することを示せ。
[
解答へ
]
[5]
xyz
空間で、原点
O
を中心とする半径
の球面
S
と
3
点
,
,
を通る平面
α
が共有点をもつことを示し、点
がその共有点全体の集合を動くとき、積
xyz
がとり得る値の範囲を求めよ。
[
解答へ
]
[6]
空間内に四面体
ABCD
を考える。このとき、
4
つの頂点
A
,
B
,
C
,
D
を同時に通る球面が存在することを示せ。
[
解答へ
]
各問検討
[1]
(
解答は
こちら
)
(1)
は確率の基本問題、
(2)
は定積分の教科書レベルの計算問題です。こうした問題を落とすと致命傷になってしまうので、試験会場ではよく見直すようにしてください。
こうした問題が出題されるのは、採点していて、基本を無視していて見る気にもならない答案が続出するからではないかと思います。高難度の問題で、ただでさえ答案の流れがつかみにくい答案が続出する中、細部まで調べてみても全く見るべきところが無かった、という答案に当たると、採点者も、基本をしっかりやっておけよ、と言いたくなるのではないかと思います。実際の試験でどういう採点が行われているかわかりませんが、もしかすると、
[1]
のできが悪い答案では、基本が理解できていないのに見ても時間のムダと判断されて
[2]
以降を見ない、ということをやっているかも知れません。そうした意味でも、
[1]
のような基本問題を気を抜かずに慎重に解答するようにしましょう。
また、難関大学でも、全体のレベルを下げることなく、こうした基本問題を混じえて出題する傾向にあります。難関大学だからと言って教科書の基礎事項を無視した勉強法は無意味です。種々の受験技巧も基礎事項を理解できた上でのものです。教科書の基礎事項にも目を光らせるようにしてください。
[2]
(
解答は
こちら
)
行列、
1
次変換の基本問題です。行列の積の計算規則と、
1
次変換の意味さえわかっていれば正解できるので、
[1]
と同様に落とせない問題です。
今年、試験実施中に試験問題が携帯電話から外部質問サイトに漏れ、解答が試験時間中に質問サイトに掲載されてしまうという問題の起きた京大入試数学ですが、
6
月
21
日にフランスで行われたバカロレア試験
(
高卒学力認定
&
大学入学資格試験
)
で、やはり数学の問題が漏洩して、大騒ぎになっているそうです。
フランス当局は、漏洩した問題のみ採点対象から外し試験自体は有効、という対応を発表しましたが、この問題を解いた受験生が不利、この問題を解かずに他の問題を解いた受験生が有利になるという不公平が生じる、というクレームがついているそうです。フランスでは、試験問題が漏洩しても容易に解答が書けないような問題を出題せよ、という議論が起きているそうですが、京大の本問あたりはどうでしょうか?携帯通信機器を用いて外部に漏れてしまえば、簡単に正解を答案用紙に書くことができてしまいます。
教科書の例題レベルで基本を見る問題であっても、もう少し、工夫した問題にすることはできないものか、と、思います。パラメーターを
1
つ増やして整数解の問題にするとか、面積の変化の具合と行列との関係を検討させるとか、試験会場での対応を求めるような工夫の余地があるのではないでしょうか。
[3]
(
解答は
こちら
)
絶対値記号を含む関数と直線
とで作られる図形の面積を求める問題ですが、うまく工夫すれば、定積分公式:
を利用して、複雑な計算をすることなく解答することができます。漠然と計算してしまわないで、何とかしてラクに正解しよう、という問題意識を持つことが重要です。
とは言っても、本問の面積
S
を、
として計算しても大した計算ではありません。あまり解法に懲りすぎて、うまく計算することに時間をかけ過ぎるくらいなら、多少面倒でも腕尽くで計算する方が結局早かった、ということもあり得ます。工夫することは大切ですが、過ぎたるは及ばざるがごとし、ということも言えるので注意してください。
[4]
(
解答は
こちら
)
不等式の証明問題ですが、
[1]
〜
[3]
と比べて、この問題は少し考え込むかも知れません。いきなり与不等式のまま示すのは厳しそうです。
そこで、簡単な場合を考えてみよう、ということになります。
の場合、与不等式は、
となります。これであれば、条件
を用いて、簡単に示せそうです。あとは、
1
項ずつ追加していって、ということで数学的帰納法により示す、ということは京大受験生であれば考えつけるでしょう。
問題文の不等式
・・・
(
*
)
に
1
項追加する場合、左辺を意識すれば、両辺に
をかけるでしょうし、右辺を意識すれば、両辺から
を引くことになります。
後者でやろうとすると、
となりますが、
中カッコ内の
は、最悪の場合
,
,・・・,
が
に非常に近いと、
に近い数となり、
となりうるので、うまく行きません。そこで、解答のように
を
(
*
)
の両辺にかけるのだろう、ということになります。これでも、まだ一本道とは言えませんが、問題文の条件を利用することによって切り抜けられます。
本問のように、試験会場でいろいろ格闘することを要求する問題の方が京大数学の本来の姿です。
[1]
〜
[3]
が基本的出題とは言っても、京大数学が易化して入りやすくなったとは言えないので、京大志望者は、しっかりと試験準備を行うようにしてください。
[5]
(
解答は
こちら
)
前半部分は、平面の方程式、点と平面の距離の公式の利用により容易に解くことができますが、仮に、平面の方程式に関する知識がなくても、諦める必要はありません。空間ベクトルの問題として解答することができます。
後半では、
3
次方程式の解と係数の関係、対称式を利用します。直接、積
xyz
はどうなるか調べに行くと難しくなってしまいます。京大では、かつて、
理系
05
年前期
[3]
、文系
00
年後期
[4]
、など、
3
次方程式の解と係数の関係を利用する問題をよく見かけたように思いますが、最近、見かけなかったので盲点だったかも知れません。意外と、後半部分で苦労した受験生が多いのではないかと思います。
後半部分だけを抜き出した簡単な問題として、
,
のとき、
のとり得る値の範囲を求めよ。
という問題では、
より、
これより、
とおいて、
x
,
y
,
z
を解とする
t
の
3
次方程式:
が、重解も含めて
3
実数解を有することから、
とおいて、
の極大値:
の極小値:
が
3
実数解をもつので、
これより、
を用いて、
となりますが、こうした問題を問いた経験があれば、本問は何でもなかったでしょう。
[6]
(
解答は
こちら
)
理系
86
年
[4]
を彷彿とさせる、手のつきにくい図形の論証問題ですが、
理系
09
年前期乙
[2]
と比べれば容易な問題です。本問のような問題でこわいのは、実はできるのに、真剣に考えもせず、多分自分には無理な難問だと決めつけて放棄してしまう、ということです。時間的に厳しければやむを得ないのですが、試験会場から駅までの帰り道、周囲から、あれは見かけ倒しだった、というような声が聞こえてきたら、悲しい気持ちにさせられませんか?
本問が考えにくいのは、「
.......
が存在することを示せ」という問題文のためです。解答に書いた通り、京大ではよく見かける問題文で、
理系
08
年前期乙
[3]
などで、対処法をあらかじめ研究しておく必要があります。本問では、これがクリアできれば、
3
点から等距離の点が、
3
点を頂点とする三角形の外心を通り、この三角形に垂直な直線上にあることは明らかなので、あともう
1
点とが等距離になるためにはどうしたら良いかを考えるだけで最終解答に至ります。問題文を見ただけで断念してしまうのはもったいない問題です。
本問で座標をとってベクトルで考える方針をとると、
3
つのベクトルが
1
次独立であることと
3
次の行列が逆行列をもつことの関連を考えることになるのでやや難しくなります。減点は食らうかも知れませんが、解答追記のような流れにしておくことになるだろうと思います。
ただ、京大受験生としては、
2
次の行列について、
のとき、
が存在
⇔
⇔
,
が
1
次独立
というところから、
3
次の行列についても同様であることを知っていて欲しいところです。
3
つの縦ベクトル
,
,
が
1
次独立であれば、任意の縦ベクトル
は、
,
,
の
1
次結合、
の形に表すことができて、
がただ
1
通りに決まります。このことは、
とすれば、
が存在して
(
)
、
であることを意味します。
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