東工大数学'09前期[2]検討

[2](解答はこちら) 行列Aの表す1次変換における不動直線を、固有値、固有ベクトルを使って考えてみます。
行列
Aが固有値α をもち、この固有値に対する固有ベクトルがだとします。つまり、
このとき、ベクトル方程式:
で与えられる直線上の点は、
より、直線上に移るので、直線はこの1次変換について不動直線になります。直線は原点を通る直線です。
今度は、行列
Aの表す1次変換が原点を通らない不動直線をもつとします。原点を通り方向ベクトルがの直線と直線との交点の位置ベクトルは、s0でない実数として、と表せます。不動直線の方向ベクトルをとすると、のベクトル方程式は、tを実数の変数として、
(uvは実数)として、上の点は1次変換により、
に移りますが、これが直線上の点であるためには、
これが、任意の実数tにかかわらず成立するためには、恒等式の条件より、
より、,また、となります。のときには、も固有値1に対する固有ベクトルとなってしまうので、別に考える必要があります(後述)のときには、1次独立で、1次変換が原点を通らない不動直線をもつとき、行列Aは固有値1を持ち、もう1つ、1以外の固有値vを持てば、不動直線の方向ベクトルは、vに対する固有ベクトルになります。
不動直線は多くの問題では原点を通る直線になるのですが、東大理系
'82[1]に次の問題があります。

行列によって定まる
xy平面の1次変換をfとする。原点以外のある点PfによってP自身にうつされるならば、原点を通らない直線であって、のどの点もfによっての点にうつされるようなものが存在することを証明せよ。

原点以外の不動点
Pが存在するとき、として、
 ・・・@
が成り立ちます。これは、行列Aが固有値1をもつ、という意味です。なぜかと言うと、
ですが、逆行列が存在するときには、左からをかけると、
となって、Pが原点に限られてしまうので、は存在せず、
でなければなりません。これは、固有方程式:を代入すると0になるということで、行列Aは固有値1をもちます。このとき、行列Aのもう1つの固有値をkとして、
 ・・・A
となります。のときには、1次独立です。なぜなら、 (uは実数)と書けたとすると、
()
という矛盾が生じるからです。
このとき、
sを任意の実数の定数として、とすると、ベクトル方程式:で与えられる直線 (原点を通らない)を考えると、より、
となり、上の点が上に移ることがわかります(前述のように、は不動直線です)のとき、なので、位置ベクトルがとなる点は不動点です。
の場合
(固有値1が重解)には、1次独立なベクトルを (何でもよい)として、
 ・・・B
とおくと、ハミルトン・ケーリーの定理よりなので、
となるはずですが、


1次独立なので、,Bより、
これより、ベクトル方程式:で与えられる直線 (原点を通らない)を考えると、
となり、やはり上の点が上に移ります。但し、のときには、任意のtについてなので、不動点は存在しません。
東大の問題では不動点が存在しましたが、東工大の本問の条件
(1)が不動点であれば、行列が固有値1をもって
より、のときに、東大理系'82[1]の問題文により、条件をみたす直線Lが存在します。このとき、ですが、
より、Aは固有値12をもちます。
より、固有値1に対する固有ベクトルは
より、固有値2に対する固有ベクトルは
固有値
1が重解ではないので、不動直線は、sを任意の実数の定数、tを実数の変数として、ベクトル方程式:
で与えられます。tを消去して、
これがを通るとき、より,不動直線は、
となります。
東工大の問題の行列
Aが固有値1を重解にもつことはありませんが、固有値1を重解にもつ行列、例えば、
の不動直線を考えてみます。
より、固有値1に対する固有ベクトルは
1次独立なベクトル、例えばをもってくると、不動直線は、ベクトル方程式:
で与えられます。tを消去してを通る不動直線は、になります。この場合には、行列Aの表す1次変換により不動直線上の点
より、に移るので、不動点は存在しません。を通る不動直線は存在します。
上記以外の場合では、不動直線が原点以外の点を通過する場合はありません。従って、以外にを通過する不動直線が存在すれば、その不動直線は、原点を通過することになります。と原点を通過する直線は
(y)です。最初の方に書いたように、このとき、行列Aは固有ベクトルをもちます。
//
より、のときにも、条件をみたす直線Lが存在します。
のとき、です
(行列Aは対角成分のみを持ち、いずれも2なので、重解の固有値2を持ちます)が、任意のベクトルについて、となるので、実は、固有ベクトルは任意のベクトルになっています。つまり、原点を通る任意の直線が不動直線になります。
参考までに、のときには、固有方程式:

より、Aは異なる2個の固有値2 ()を持ちます。
より、固有値2に対する固有ベクトルは、
より、固有値に対する固有ベクトルは、
このときには、原点を通る直線:が不動直線
(は通りません)になります。
整理すると、原点以外の点
Pを通過し、原点を通らない不動直線が存在するのは、
(i) 行列Aが重解でない固有値1をもつとき、もう一方の固有値に属する固有ベクトルに平行な直線で点Pを通過する直線が不動直線になる。点Pは不動点になる。
(ii) 行列Aの固有値1が重解になるとき、固有ベクトルに平行な直線で点Pを通過する直線が不動直線になる。点Pは不動点ではない。
の場合で、
(iii) 行列Aが固有値1を持たないときには、不動直線は原点を通る。
東工大の本問の場合であれば、
(i)の場合が(ii)の場合はなく、(iii)の場合がということになります。

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