東工大数学'10年前期[4]検討

[4](解答はこちら) 今年の東工大は、この問題だけで決まったと言ってもよいのではないかと思います。実地でも、ほとんどの受験生が本問に大半の時間をかけたと思いますが、簡単な例から調べ始めて悪戦苦闘しながら発展させて行き、たとえ不十分解であっても大体のところを押さえてあれば合格できたと思います。ですが、入り口で堂々巡りになってしまうとか、放棄して本問を完全断念、ということになってしまうと、涙を飲むことになったのではないでしょうか。[1][2][3]の易しさを思うと、出題者も承知の上でのことだったかも知れません。
解答は、標準的な受験生の姿を思い浮かべながら悪戦苦闘して解答していますが、手慣れた受験生やプロの予備校講師であれば、解答のように実験しながら方向性を探るのではなく、最初から、が十分条件、が必要条件で、十分条件の範囲が必要条件の範囲に含まれるためにはどうすればよいか、と、考えるだろうと思います。その上で全体的な方針を立て、一気に結論に到達した上で、分母=
0のような特殊な場合を繕いつつ答案をまとめて行く、というように進むだろうと思います。
高校数学の基礎がしっかりできている受験生であれば、解答とは異なるアプローチであっても、時間をかけて試行錯誤すればそれなりに取り組めると思うので、ここでは、どうしたら、最初から「必要条件、十分条件」と着想できるか、ということを考えてみたいと思います。

一つには、数多くの入試問題に当たって、解法パターンのライブラリを充実させておく、ということが言えますが、他の科目の勉強も抱えている受験生ではそういうわけにも行かないでしょう。レベルの高い問題を要領よくうまく選び、実際に時間をかけて取り組めばよいのですが、どういう問題を選択し、どういう視点から問題を眺め、どういう解き方をしていればよいのか、ということを考えて頂く必要があります。
頭脳明晰な予備校講師だと、この問題を解説するとき、「この問題は、必要条件・十分条件の問題で、云々」と話し出して、鮮やかに解き進めて行くだろうと想像します。本問が、頻出パターンの問題であれば、しっかりその話を聞いて復習し自分のものにすればよいでしょう。ですが、本問は、頻出パターンというわけではなく、今後
100年くらいは類似問題は出ないだろうと感じるような問題で、こうやればできる、という話を聞いていたところで、標準的な受験生が実地に本問のような問題を初見で解けるとはとても思えません。
駆け出しの若い講師だと、本問のような問題の解説をするときに、説明があちこち飛んだり、自己矛盾に陥るようなことがあるのではないか、と、思います。私は、有名講師の鮮やかな解答に感心するよりも、そうした新米講師の話を、自分だったら、どういう説明の仕方を工夫し、どういう流れでどう理屈付けするだろうか、という問題意識を持ちながら聞いている方が、実戦的な学習になるのではないか、と、思うのです。講師が黒板を前に苦しみ出したりすれば、それこそ、その悪あがきの仕方そのものが、ことしの東工大合格の処方箋のようなものです。

では、日常の勉強でどういうことに注意して欲しいか、と、言えば、よく言われることですが、次のようなことだと思います。

・問題文の条件式を式変形する場合には、同値変形であるか、ということに絶えず注意を払う。
・問題文の条件に適当に数をあてはめて条件に適合する答えを見つけた場合には、問題文に対して十分条件となるものを調べただけなので、必要性のチェックをする、つまり、他にも、問題文の条件を満たす答えがあるのではないか、と、頭をめぐらせてみる。
・問題文の条件をあれこれいじっているうちに答えらしきものに行き着いた場合には、十分性をチェックする、つまり、答えらしきものが本当に答えになるのか、条件を満たすかどうかを確かめてみる。
といったことを、どんな問題においても、「意識する」ことです。
特に、本問のような
2次方程式・2次不等式の解を扱う問題、余事象を考える確率の問題、対偶を考える証明問題、除外点を有する軌跡や領域図示問題などでは充分に注意して頂きたいと思います。こうしたことは、日常の行動においても重要なことと言えます。これも、よく言われることですが、うまい話には裏がないか、詐欺師にダマされないように気をつける、センター試験準備は3日でOKというような安易な解決法は疑ってみる、といったことも同様なことです。大切なことは、意味不明な流行に流されずに、「論理的に」適正なことかどうか、絶えず神経を使う、ということです。
また、難問に取り組むときの着想の仕方ですが、
2点注意しておきたいと思います。一つは、ありきたりの発想ではうまく行かないだろうと覚悟すること、もう一つは、既に自分が獲得している知識の中で解けるはずと自分に言い聞かせること、です。2点で矛盾しているようですが、自分が通常取り組んでいる解答の流れではうまく行かないからと言って、数学の公式・定理や物理法則を踏み外した解法が存在するわけではない、ということです。ありきたりの発想でうまく行かないときは、例えば、本問解答のように、いろいろと実験をして何が問題の核心かと考えてみましょう。抽象的・一般的な問題では、個別の特定のことがらを調べると、問題の核心に迫ることができる場合があります。また、証明問題では、結論の方から逆にたどってみたり、結論の通りにならなければどういう不具合があるか(背理法の発想)を考えることにより道が開ける場合もあります。いつもと違う方向から眺めてみる、ということを試してみてください。
もちろん、自分が既に習得している解法では解けない、ということもあると思いますが、自分が持っている解法パターンでいろいろと試してみて、どうやってもうまく行かないという苦しみを味わっておくことが大切です。その苦しみを経ているからこそ、本ウェブサイトや参考書などで新たな解法を身につける場合に、新たな解法の有難味が身にしみてわかるのであって、苦しみが底にあるからこそ、新たな解法が頭脳の中に定着できるのです。受験生の実力が伸びるきっかけとなるのは、解けなかった悔しさ、模試でライバルに負けた悔しさ、こういうものです。この苦しみ・悔しさなくして、学校でいすに座ったまま人の話を聞いているだけで解法パターンが増えていくわけではありません。
自力で解く問題の選び方ですが、微積の計算練習であれば、計算時間の短縮が目標になるので、解法のわかっている問題で練習するのがよいでしょう。ですが、本問のような論理的に入り組んでいる問題に対処する力をつけるためには、解法のわかっていない問題で頭をひねるのでなければ意味がありません。高校の先生や予備校講師の中には、解法のわかっていない問題に取り組むことを時間のムダのように言う先生が多数いますが、テニスや将棋をうまくなりたければ、自分よりも実力の上の人と試合をしなければ実力の向上はあり得ません。勉強時間の割りに実力が向上しないと悩んでいる人は、解法の分かっている問題ばかりを解いていないか自問自答してみてください。既に解けるようになっている問題に取り組むばかりでは実力は向上しません。むしろ、解法のわかっていない問題に意欲的に挑戦することに快感を感じるように心がけて頂きたいのです。未知の解決法に挑戦することこそが、将来、皆さんが研究者・技術者として、最前線の科学技術の進歩にかかわることにつながる、と、考えてください。


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