東大理系数学'09前期[6]検討

[6](解答はこちら)  試験会場で本問の問題文を目にした受験生は、「何じゃこりゃ」と思っただろうと思います。実際にやってみて、いやはや参りました。(1)(2)はベクトルの基本に帰って考えれば何とかなるにしても、(3)まで完答できた受験生はほぼ皆無ではないかと思われます。数学オリンピックならともかく、こういう入試問題には、私は賛成しかねます。
想像するに、情報処理の基礎アルゴリズムなどを研究している出題者が、台風の進路予測や、社会的なパニック発生時の人間の行動の統計的シミュレーションを行うときに使う評価システムの処理を、焼き直して入試問題にした、という雰囲気です。ふだん、それを専門的に扱っている研究者にとっては当然と思えるような内容でも、初見の受験生にとっては驚愕し困惑するようなものでしかありません。
本問のような問題
(かつての後期試験の問題もそうですが)は、未体験の状況に置かれたときの受験生の創意工夫の意欲を見ようというのが目的だと思います。とは言っても、全ての受験生にとって平等に新鮮に感じられるように、受験生にとって非日常的な環境を想定して試験を行うことで、果たして、受験生一人一人の真の実力を見極めることができるのでしょうか?私は、疑問符をつけたくなります。東大と言えども、もう少し、オーソドックスな問題で入学者選抜を行うのでよいのではないでしょうか。

さて、問題の方を見てみます。問題文の内容がかなりブッ飛んだ内容なのですが、こういう問題は逆に、基本に戻って基本に忠実に考えて行くべきです。という記号が出てきて、理系
'93年前期[3]や理系'94年前期[6](これも頭を抱え込んでしまう難問でした)を思い出しますが、ということでしかないので、高校数学をはみだすような発想をとらない、ということを肝に銘じてください。
この問題を全体を通して眺めてみると、正三角形の
3頂点を出発して、本来なら、各角の2等分線の方向に進んだ3個の動点が中心で出会うはずなのに、それぞれが少しずれた方向に進んでしまったとしたら、中心付近でそのずれの大きさをどのように評価するか、ということがテーマになっています。
(1)では、を出発した動点と、を出発した動点との相対位置(から見たの位置)を表すベクトルの大きさ (の距離)が小さければ、から見たの相対速度の方向と、本来出会うはずの方向とのずれの角の正弦も小さくなることを示します。これは、ベクトル図を描きさえすれば、すぐにわかります。基本に帰れ、ということでしかありません。問題文に圧倒されて高校数学の知識からずれるようなことを始めると、時間だけがむなしく過ぎ去っていくことになります。
(2)では、本来出会うはずの方向にが進んでいけば、になるはずなので、になるはずです。ですが、(1)からの進む方向が、だいたい、となる角aぐらいずれているので、もだいたいaぐらいずれるだろう、と、思えば、より、となるだろう、という予測ができます。ですが、問題文に描かれている図を見ていても、がなかなか出てきません。ここは、(1)でベクトル図を描いてうまく行ったので、(2)もベクトル図を描くことにします。渦中にあるベクトルは、です。これで、解答の中の図の二等辺三角形DCEが描ければ、2つの底角が等しい、とすることによって、が姿を現します。(1)を使って不等式を示すことができます。
問題の意図に順応するのに時間がかかると思いますが、ここまでは、やってできなくはない、と、思います。

(3)では、(1)という条件が3種類出てくるので、3種類出てきて、3つ足しての不等式を作り、の不等式:を作る、というところまでは、誰でも考えると思います。ですが、ここから、,つまり、を示すのに大苦労をします。を導き出すだけでも大変ですが、解答の注.に書いた、2乗して引いて大小を比べる、ということになると、これだけでも、試験時間を超えてしまいます。従って、何らかの工夫が必要、ということになります。
他のウェブサイトを見ると、

から、
として、
 ・・・()
が示すべき不等式となるので、(2)の結果から得られる、
より、
ここで、
とおいて、であれば
より、は単調増加で、より、 (明らかに、)

これで()が成り立つので、が成り立つ、ということになります。
確かに、この解法であれば、充分試験時間内に解答できると思います。きっと、これから、全国の予備校のスーパー東大コースなどというところで、この問題は、という関数を考えるんだ
(これは、のグラフが付近ではに非常に近い、ということを利用しているアイデアです)!東大受験は暗記だ!ということになるのかも知れません。ですが、幾多の入試問題を眺めているプロの予備校講師が解くのなら良いですが、高校3年間数学を学んだだけの受験生が、何のヒントもなしに、を試験会場で思いつけるのでしょうかねえ?
いかに、エレガントな解法であっても、いかに美しい解法であっても、試験会場で思いつける解法でなければ、入試用の技巧としての意味がありません。予備校の授業で、頭脳明晰な講師が鮮やかに解くのを鑑賞して、受験生にどういうメリットがあるのか、私にはよくわかりません。本ウェブサイトでは、たとえ遠回りな解法であっても、まじめに高校
3年間勉強してきた受験生が試験会場で思いつける解法を基本としています。
結局、この
(3)は、入試会場では見もしないでパスする、というのが正解だと私は思います。パスするのが正解、という入試問題で良いのか、ぜひ、出題者には配慮をお願いしたいと、思います。


TOPに戻る   CFV21 メイン・ページ   考察のぺージ

(C)2005,2006,2007,2008,2009
(有)りるらる
CFV21 随時入会受付中!
CFV21ご入会は、まず、
こちらまでメールをお送りください。
 雑誌「大学への数学」購入
inserted by FC2 system