京大物理'07年前期[3]
次の文を読んで、 には適した式を、{ }には正しい番号を一つ選び、それぞれの解答欄に記入せよ。また問1,問2,問3には適切な説明を所定の枠内に記入すること。
熱力学は気体だけではなく、さまざまな対象にも適用することができる。本問ではひも状の物体の熱力学を考えてみよう。あるひも状の物体を引き伸ばし、長さが
から
の範囲内で張力Xを測定したところ、Xは長さLに依存せず、絶対温度Tおよび正の定数Aを用いて
と表された。この物体の変形としては、Lが
から
の範囲内にある一次元的な伸縮のみを考え、また内部エネルギーUは正の定数Cを用いて
となるとして、以下の問いに答えよ。
(1) この物体に外から微小仕事
を加えて微小量
だけ伸ばしたときに、
という関係式が成り立つ。吸熱量を
,内部エネルギーの変化を
としたとき、熱力学第一法則より
は、
,A,T,
を用いて
あ と表される。一方
より、物体を伸ばしたときの温度変化
を用いて、内部エネルギーの変化は
い とも書ける。 断熱的に物体をゆっくりと微小量
伸ばしたときの温度変化
は、C,A,T,
を用いて表すと う となり、温度は{え:@ 下降する。 A 変わらない。 B 上昇する。}ただし、
とする。
(2) さて、この物体を断熱的にゆっくりと伸ばした。そのとき
が一定であった。ここで、
はTの自然対数である。
問1 この理由を述べよ。ただし、正の変数Tを
までわずかに変化させたときの
の変化量を
と表すと、
が成り立つことを用いてよい。
(3) 次に、同じ物体を温度Tに保ったまま、長さ
からLまでゆっくりと変化させたときに物体に外から加えられた仕事は お であり、その間の吸熱量は か である。ただし、 お および か はA,T,
,Lのみで表すこと。
(4) 図1のように横軸を物体の長さLとし、縦軸を温度Tとしてこの物体の状態変化を表す。物体を温度
に保ちゆっくりと等温変化をさせ、その後ゆっくりと
まで断熱変化させ、さらに温度
でゆっくりと等温変化をさせた後に、断熱的にゆっくりと温度
の初めの状態に戻すサイクルを考えよう。高温熱源(温度
)から熱を吸収して仕事をし、低温熱源(温度
)に熱を放出するようなサイクルは、{き:@ (a)を時計回りに回る。 A (a)を反時計回りに回る。 B (b)を時計回りに回る。 C (b)を反時計回りに回る。}
問2 このサイクルでは、
と
が等しくなる。その理由を述べよ。
(5) 一般にサイクルでの熱効率は、物体がサイクルを通じて外にする正味の仕事を、高温熱源から吸収する熱量
で割った量として導入される。よって、サイクルを動かす間の熱効率は、
とサイクルを動かす間に放出する熱量
を用いて く と書ける。
問3 これまでの結果を用いて、(4)のサイクルの熱効率が
となる理由を説明せよ。
解答 難しそうに見えますが、簡単です。
(1) あ
・・・@ は、外部から物体に加えられた仕事なので、物体が外部にした仕事は
です。熱力学第一法則より、 ∴
・・・A
......[答]
......[答]う A,Bより、
......[答]え Cより、
のとき、
温度は上昇するので、B ......[答]
∴
これより、
は一定です。
(3) お @より、物体に外から加えられた仕事
は、 
......[答]
......[答]
(4) き 高温
の等温変化において熱を吸収したので、
,Dより、
,よって、ここで長さが縮みます(右図で高温
において右から左に移行する)。高温
から低温
に断熱変化するとき、
,Cより、
,よって、ここで長さが縮みます(右図の
でT,Lとも減少)。
このとき1サイクルで(a)を反時計回りに回る(右図参照)ので、A ......[答] 補足 このサイクルをカルノー・サイクルと言います。
問2 断熱変化においては、Aで
として、
・・・E
右図において、B→A(断熱変化)における内部エネルギーの変化
は、Eより、
D→C(断熱変化) における内部エネルギーの変化
は、Eより、 等温変化では
なので、A→D,C→Bにおいては、内部エネルギーの変化はありません。1サイクルでの内部エネルギーの変化は(1サイクルでもとの温度に戻るので)0です。
よって、
∴ 
(5) く 1サイクルで、内部エネルギーの変化は0,気体が吸収した熱は
物体が1サイクルを通じて外にする正味の仕事を
として、熱力学第一法則より、
・・・F
......[答]注.ηはギリシャ文字で‘えーた'と読みます。
問3 C→B(等温変化)において、Dより、
(
は吸収する熱量) A→D(等温変化)において、Dより、
(
は放出する熱量)問2の結果を利用して、 Fより、熱効率ηは、
注.問2(5),問3において、
,
,C→Bで物体が吸収した熱は
,A→Dで物体が吸収した熱は
であることに注意してください。
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