京大物理'09[2]検討

[2](解答はこちら) サイクロトロン、ベータトロンを扱う問題は、京大でも過去に出題されていますが、それぞれ単独で出題されてきました。2009年度の問題は、過去に出題された内容をブラッシュ・アップし過去の不足分を補う内容になっている上に、サイクロトロンとベータトロンの両者を扱う、という欲張った問題になっていて、受験生は時間不足に苦しんだだろうと思います。両者に関する設問の最後の問1,問2,問3はいずれも、物理的にじっくり考え込む必要があるので、問題としては良問ですが、受験生にはいささか酷な気がします。本問を演習問題として試してみようという方は、それぞれが大問1題のつもりで時間をかけて取り組んでください。
サイクロトロンでは解答にも書きましたが、円運動する際の周期が半径や速さに依らず
(磁場によって定まる)に一定になります。このことから、荷電粒子を投入してから出てくるまでの時間を予測させたり印加電圧の周期を考えさせる難問が過去に出題されています。今回は、それを踏まえた上で、最終段階で荷電粒子の回転半径を一定にするための、磁束密度の変化、印加電圧の周期の変化の設定条件を問う内容になっています。荷電粒子のエネルギーに関する物理的状況がしっかり捉えられていないと解答できません。サイクロトロンに関して、動作原理に軽く触れるだけの教科書の記述を遙かに超える深い理解も要求されています。
ベータトロンは本問の問題文の記述にあるように、装置内で一様な磁場を一様に強くすると、加速された荷電粒子に中心方向に力が働いてしまい、荷電粒子を一定半径で加速することができません。京大に限らず、ベータトロンもいろいろな大学の入試問題に登場してきましたが、高校数学の範囲を超えてしまうような数式処理が必要となってしまうので、正確な扱いをする入試問題は難しいのではないか、と、思っていました。京大では、過去に磁束の変化が磁束密度の変化と円の面積の積の
2倍になる()ことを求めさせる問題までは出題されていましたが、この問題では、定性的であっても荷電粒子を一定半径で加速するための磁場の条件まで考えさせていて、ベータトロンの入試問題の決定版と言える内容になっています。
サイクロトロン、ベータトロンの問題として、それぞれが物理的な熟考を必要とする良問であるだけに、複数年に分けて
1題ずつ出題し、受験生にじっくりと考えさせる余裕を考慮して欲しかった、と、私は思います。京大には、何人ものノーベル物理学賞受賞者を輩出してきた、という自負があるのだろうと思います。京大物理をこなすためには、素粒子の実験を行うための加速器やカミオカンデのような最先端の科学技術について、定性的な概念を知っている、というだけではなく、数式を使った定量的な計算にまで踏み込んでトライしてみよう、という高度な学習意欲が求められています。

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