京都大学
2021
年前期物理入試問題
[1]
次の文章を読んで、
に適した式または数値を、それぞれの解答欄に記入せよ。なお、
はすでに
で与えられたものと同じものを表す。また、問
1
では、指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。ただし、重力加速度の大きさは
とする。
(1)
図
1(a)
のように、質量
m
の小球を、初速度の大きさ
V
,地表から上向きに角度
θ
で投げ上げる。小球は最大高度
に達した後、落下し始めるが、地点
A
の高度
h
において、質量
M
のボールと一次元的に衝突させ、その反動を利用して小球を高く跳ね上げる。ここで、一次元的に衝突するとは、図
1(b)
のように衝突直前直後の小球とボールが同一直線上に沿って運動することをさし、その直線に沿う衝突軸を定義する。衝突軸は衝突直前のボールの進行方向を正とし、衝突軸方向の速度成分を、以下略して「速度成分」と記載する。なお、衝突は瞬間的に起こるものとし、小球とボールの大きさ、および空気抵抗の影響は無視する。
図
1(b)
のように、衝突直前の小球について、その速度の大きさを
,速度の方向と水平面とのなす角度の大きさを
とすると、
V
,
θ
,
h
,
を用いて
,
と表せる。衝突直後の小球、ボールの速度成分をそれぞれ
,
と表し、衝突直前のボールの速度の大きさが小球と同様に
だったとすると、運動量保存則は次式で表される。
・・・
(i)
ここで、
は、
m
,
M
,および
を用いて表される量である。衝突が弾性衝突であったとすると、
・・・
(ii)
が成り立つので、式
(i)
,
(ii)
より、衝突直後の速度成分
,
は、
,
m
,
M
を用いて
,
と表せる。これより、ボールの質量
M
が小球の質量
m
の
倍だった場合、衝突直後のボールの速度成分
は
0
となり、衝突直後の小球の速度成分
の大きさは
の
倍となる。このとき、跳ね上がった小球が到達する最大高度
は、
h
,
V
,
θ
,
を用いて
となる。
(2) (1)
の小球をさらに高く跳ね上げるため、図
2
のように、最大高度に到達した後に落下してくる小球めがけて、高度
h
でボールを衝突させる、という過程を繰り返し行なったとしよう。ここで、
(1)
と同様に、小球とボールは一次元的に衝突し、図
3
のように衝突ごとに定義される衝突軸方向の速度成分を、以下略して「速度成分」と記載する。また
n
回目
(
)
の衝突時のボールは、衝突直前の速度の大きさが
,衝突直後の速度成分
が
0
となる質量
を有するものとする。
このとき、
n
回目の衝突直後における小球の速度成分
を
と表し、衝突が弾性衝突であったとすると、
と
の間に、次の関係式が成り立つ。ただし、
とする。
・・・
(iii)
(1)
より、
であるため、式
(iii)
を解いて、
と求まる。これより、
回目の衝突より前に小球が到達する最大高度
は、
h
,
V
,
θ
,
,
n
を用いて、
となる。
問
1
(2)
における衝突過程について、以下の問いに答えよ。
(i)
n
回目に衝突させるボールの質量
は、小球の質量
m
の何倍にすればよいか。
n
を用いて表せ。導出過程も示せ。
(ii)
衝突させるボールの質量に上限があると、衝突直後のボールの速度成分が
0
となる衝突回数に上限ができる。ボールの質量の上限が小球の質量
m
の
10
倍である場合、衝突回数が上限に達したときの小球が到達する最大高度は、ボールと衝突する前の最大高度
に比べて何倍になるか。
の場合について答えよ。
[
解答へ
]
[2]
次の文章を読んで、
に適した式または数値を、それぞれの解答欄に記入せよ。なお、
はすでに
で与えられたものと同じものを表す。また、問
1
,問
2
では、指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。ただし、円周率を
π
とする。
図
1
のように、半径
L
の円弧形をした導線
XY
に、中心
O
を支点として端点
P
で円弧と接しながら回転できる長さ
L
の導体棒
OP
が接続されており、
OY
間に抵抗値
R
の抵抗と電気容量
C
のコンデンサーが導線で接続されている。
XY
を直径とする灰色の半円領域に、紙面の裏から表に向かう磁束密度
B
の一様な磁界がかけられており、時刻
において導体棒の端点
P
は点
X
の位置にある。まず、導体棒を一定の角速度
で反時計回りに回転させる。端点
P
が時刻
で点
Y
に到達した後、導体棒を静止させずに瞬間的に折り返す。点
Y
から時計回りに同じ大きさの角速度で回転させると、端点
P
は時刻
で点
X
に戻り、時刻
のときと同様に瞬間的に折り返す。時刻
以降は、
の導体棒の運動を繰り返すとする。導線、導体棒、円弧の接点における抵抗は無視できるとし、時刻
においてコンデンサーに電荷は蓄えられていなかったものとする。電流の符号は図
1
の矢印の向きに流れる場合を正とし、導体棒に生じる起電力の符号は、正の電流を流す場合を正とする。また、回路を流れる電流がつくり出す磁場は無視する。
(1)
時刻
で導体棒の端点
P
が点
X
から動き始めたとき、閉回路
OPYO
を貫く磁束の変化から、導体棒の両端に生じる起電力は
と求められる。閉回路には電流
が流れ出し、コンデンサーには電荷が蓄えられ始める。
導体棒が点
Y
に向かって回転しているとき、時刻
t
(
)
において回路を流れる電流を
I
,コンデンサーに蓄えられている電気量を
Q
とする。このとき、キルヒホッフの第
2
法則より
・・・
(i)
の関係がある。電流
I
は、時刻
のときの電流
よりも小さい。導体棒は回転方向と反対向きに磁界から力を受けるため、導体棒を一定の角速度で回転させ続けるためには、外部から仕事を与えなければならない。いま、微小時間
の間にコンデンサーに蓄えられる電気量が
だけ増加したとする。ただし、微小時間
の間に電流
I
は変化せず、
,
の
2
次以上の項は無視することとする。微小時間
の間に抵抗で消費されるジュール熱は
,コンデンサーに蓄えられる静電エネルギーの増加量は
である。ただし、
,
は
を含まない式で答えること。この両者の和は、
I
,
B
,
L
,
T
を用いて
と表すことができ、
の間に外部から導体棒に与えた仕事に等しい。
(2)
導体棒の端点
P
が点
X
を出発した後、
の間においてコンデンサーに蓄えられている電気量
Q
は、図
2
のグラフの曲線で示されるような時間変化を示した。導体棒の角速度が小さく、端点
P
が点
Y
に到達するよりも前に電流が十分小さくなり、時刻
において電流が
0
とみなせるとき、時刻
における電気量
は
である。時刻
における曲線の接線が
の直線と交わる点の
t
の値を
とする。時刻
における接線の傾きが、導体棒の端点
P
が点
X
を出発した直後の微小時間における電気量の変化を表すことに注意すると、
は
B
,
L
,
T
,
C
,
R
のうち必要なものを用いて
と表せる。
問
1
時刻
において端点
P
が点
Y
に到達した後、静止させずに瞬間的に折り返すと、電流が再び流れ出し、点
X
に到達するよりも前に電流が
0
とみなせる状態になったとする。
の間においてコンデンサーに蓄えられている電気量
Q
の時間変化を、時刻
における接線の傾きが分かるように、図
2
と同様に描け。
(3)
次に、導体棒の角速度が大きく、時刻
で端点
P
が点
Y
に到達したときに電流が
0
とみなせない場合を考える。
時刻
t
においてコンデンサーに蓄えられている電気量を
,回路を流れる電流を
,導体棒に生じる起電力を
とすると、キルヒホッフの第
2
法則は
・・・
(ii)
と書くことができ、
についての解が求められることが知られている。ある時刻範囲
において導体棒の起電力
が一定であるとすると、
における
についての式
(ii)
の解は
・・・
(iii)
と表すことができる。ここで、
は時刻
においてコンデンサーに蓄えられている電気量、
は
が十分大きく、電流が
0
とみなせるときの時刻
における電気量、
は自然対数の底、
であり、
は
で表される定数である。
まず、
の場合を考える。
において
は一定値
であるので、
(2)
より
とおける。したがって、
とおくと、時刻
においてコンデンサーに蓄えられている電気量は、
x
を用いて
と表せる。
次に、
,
の場合を考えると、それぞれ
,
として、式
(iii)
の
と
を適当な式で置き換え、
,
を求めることができる。時刻
,
においてコンデンサーに蓄えられている電気量は、
と同様に
x
を用いて、それぞれ
,
と表すことができる。
問
2
導体棒を何度も往復させながら十分な時間が経過したとき、コンデンサーに蓄えられている電気量は、最大値
と最小値
の間で変化し、さらに時間が経過しても最大値と最小値は一定のままであった。この場合の
T
と
の大小関係について、
x
の値を求めて説明せよ。
[
解答へ
]
[3]
次の文章を読んで、
に適した式または数値を、それぞれの解答欄に記入せよ。なお、
はすでに
で与えられたものと同じものを表す。また、問
1
,問
2
では、指示にしたがって、解答をそれぞれの解答欄に記入せよ。ただし、円周率を
π
とする。
(1)
図
1
のように、
X
線の結晶による反射を考える。結晶の中で、原子は間隔
d
で平行に並んだ面T,U,V,・・・上に規則正しく並んでいる。また、
X
線の発生源は結晶から十分離れた場所に置かれており、
X
線は結晶に対して同じ方向から平行に入射するとしてよい。このとき、入射
X
線と結晶面のなす角度を
θ
とする。原子により反射された
X
線を結晶面から角度
θ
の方向にある検出器で検出する。検出器も結晶から十分離れた場所にあり、検出器で観測する反射
X
線は全て平行であるとしてよい。ここで、
θ
は
0
から
の範囲で考えるものとする。また
X
線の波長を
λ
とする。
図
2
に示すように、結晶面T上にある原子
P
と、その一層下の結晶面U上にある原子
Q
による
X
線の反射を考える。原子
Q
は原子
P
の直下にあるものとする。このとき、
2
つの
X
線の経路差は
d
および
θ
を用いて
あ
と表される。従って、
2
つの
X
線が強め合うための条件式は、
k
を正の整数として波長
λ
,間隔
d
,および角度
θ
を用いて
い
で表される。
(2)
原子と
X
線の間にはたらく力により、
X
線の軌道は結晶内に入るとわずかながら変化する。それを屈折率の形で表すと、結晶中の屈折率
n
は
1
よりごくわずかに小さい値を持つ。また、
X
線の空気中の屈折率は
1
であるとする。屈折率を考慮すると
(1)
で求めた条件式がどのように変更されるか考察しよう。図
2
と同様に、結晶面T上にある原子
P
と、その一層下の結晶面U上にある原子
Q
による
X
線の反射を考える。ただし、
X
線は全反射が起こらない角度で入射するものとする。このとき、結晶内では
X
線の波長が変化し、図
3
に描かれているように原子
Q
には角度
θ
より小さい角度
で
X
線が入射することになるが、
と
の間には
う
という関係式が成り立つ。また、結晶中の波長を
とすると、
は空気中での波長
λ
と結晶中の屈折率
n
を用いて
え
で表される。従って、
2
つの
X
線の位相の差は、
d
,
λ
,
n
,
θ
を用いて
お
と表される。ただし、
X
線の発生源における
2
つの
X
線の初期位相は同じであるものとする。また、
お
が
の整数倍の場合には
X
線が強め合うという条件から、
2
つの
X
線が強め合うための条件式は、
d
,
λ
,
n
,
θ
,正の整数
k
を用いて
か
で表される。
(3)
電子や中性子などの粒子は、波動の性質も示すことが知られている。これをド・ブロイ波
(
物質波
)
といい、その波長
λ
は粒子の質量を
m
,速さを
v
として
で与えられる。ここで、
h
はプランク定数と呼ばれる定数である。ド・ブロイ波は周期
T
,波長
λ
の正弦波で表せ、粒子が結晶に入射すると
X
線のときのように回折や干渉が起こる。
いま、図
4
に示すような
xy
平面が水平面、
z
軸下向きが重力の向きとなるよう直交座標軸をとり、重力加速度の大きさを
g
とする。平面
Σ
は、水平面と交わる直線が
y
軸と平行となる平面であり、その直線を軸にして回転できるものとする。平面
Σ
が水平面となす角を
α
とする
(
図
4
の角度の向きを正とする
)
。平面
Σ
内に平行四辺形
ABCD
,そして点
E
,
N
が存在し、辺
AB
は水平面上にある。点
N
,
A
,
B
および点
D
,
C
,
E
は、それぞれ同じ直線上にあり、辺
AB
と辺
DC
の間隔は
s
である
(
図
5
参照
)
。
平面
Σ
内の詳細を図
5
に示す。ここで、中性子が平行四辺形
ABCD
上の辺を運動するよう、適当な結晶を点
A
,
B
,
C
,
D
に適切な角度で配置し、点
N
にある中性子源から点
A
に速さ
を持つ中性子のビームを入射させる。ただし、中性子は十分に速く、中性子の軌道は重力によって影響を受けないとする。また、結晶の厚さは無視できるほど十分薄いとし、さらに、結晶中の屈折率は近似的に
として取り扱うものとする。中性子の質量を
m
とし、入射するド・ブロイ波の波長を
とする。この中性子ビームは一般に結晶を透過する成分と結晶により散乱される成分に分かれるが、散乱される成分に対しては
(1)
で求めた反射の条件が満たされるものとする。結晶で
2
つに分かれた中性子の波を再度
2
つの結晶上の点
B
および
D
で反射させることにより、点
C
に集約させ、点
E
でド・ブロイ波を観測する。
にとり、平行四辺形
ABCD
が水平面に対して垂直になる場合を考える。中性子が辺
DC
を動くときは、速さが
と異なるため、
,
,
,
s
を用いると、波長は
き
となる。
き
と
の違いは非常に小さいが、
2
つの異なる経路によるド・ブロイ波の干渉を見ることにより、中性子に対する重力の影響を観測することができる。
問
1
にとり、辺
AB
の長さを
としたとき、中性子が経路
ABCE
を通る場合と経路
ADCE
を通る場合で、正弦波の位相の差を求め、
,
m
,
,
s
,
,
h
,
の中から必要なものを用いて答えよ。導出過程も示せ。なお、ド・ブロイ波の周期
T
は
2
つの経路で変化せず、位相の差は波長の違いのみで決まる。さらに、
は
に比べてはるかに小さいものとし、必要に応じて
が
1
より十分に小さいときに成り立つ近似式
を用いてもよい。
問
2
,
,入射するド・ブロイ波の波長
とする。以下の問いに答えよ。
(i)
図
4
の角度
α
を変化させながら点
E
で中性子ビーム強度を観測することにより、重力の影響をみることができる。角度
α
を
0
から
まで増加させたとき、点
E
で中性子ビームが干渉により強め合うことが何回起こるか答えよ。
(ii)
角度
α
を
0
から増加させたとき、点
E
で中性子ビームがはじめて干渉により弱め合うときの
の値を有効数字
2
けたで答えよ。
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