東工大物理'04年前期[3]

太陽とほぼ同じ質量をもちながら半径は10kmほどしかない高密度の星(中性子星)には、普通の恒星(伴星とよぶ)と万有引力で引き合いながら極めて近い距離で周回運動するものがある。伴星からこの中性子星に降り積もった水素やヘリウムが核融合反応を起こして爆発することがある。この現象を考察する。
(a) 伴星から流れ出した物質が中性子星に落下する。水素原子が無限遠から中性子星に落下すると考えて、表面に達したときの運動エネルギーを求めよ。ただし、水素原子は無限遠では静止していたとする。また、中性子星の半径をR,中性子星の質量をM,水素原子の質量を,万有引力定数をGとする。
(b) 中性子星の表面にたまった水素はX線を放射して運動エネルギーを失う。その水素が核融合反応を起こして爆発した。燃料の水素原子1個あたりどれだけのエネルギーが発生するか。実際の反応は複雑だが、ここではたまった水素の原子核()はすべて
という核反応で鉄の原子核に変わり、生成される陽電子はすべて電子と衝突してエネルギーに変わるものとする。水素原子の質量を,鉄原子の質量を,光速をcとする。
(c) 上の設問(b)において、生成された鉄は単原子の気体になり、爆発で発生したエネルギーは熱となって、生成されたすべての鉄原子に等しく分配されると仮定する。この鉄原子が到達できる中性子表面からの高さの上限を求めよ。
(d) 核融合によって水素が鉄になって発生したエネルギーは鉄原子の熱運動から電磁波の放射に変換され、爆発的なX線放射(X線バースト)として地球周辺の人工衛星から観測される。また、設問(a)で求めた伴星から水素が降り積もることによって発生するエネルギーは定常的なX線放射として観測される(1参照)。核融合爆発によって放射されたエネルギーと前の爆発からこの爆発までの間に定常的に放射されたエネルギーとの比を有効数字1桁で求めよ。ただし中性子星の質量Mkg,中性子星の半径Rmとする。必要に応じて原子核の結合エネルギーのグラフ(2)および以下の物理定数値を用いよ。
電気素量C, 万有引力定数, 光速m/s, 水素原子の質量kg,電子の質量kg, 中性子と陽子の質量の差kg
(e) 太陽とほぼ同じ質量をもちながら地球とほぼ同じ半径をもつ高密度の恒星(白色わい星)の表面でも、伴星から降り積もった水素ガスが突然に核融合反応を起こして、大爆発が起きることがある。このとき、遠方に向かって物質が放出されることが観測されている。しかし中性子星上の爆発では物質の放出現象はほとんど観測されない。この違いが生じる理由を簡潔に説明せよ。



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解答 学校のクラブ活動で宇宙論をかじったことのある人には大した問題ではないのですが、標準的な問題集を解いただけの受験生は戸惑っただろうと思います。

(a) 中性子星表面に達したときの水素原子の運動エネルギーKとします。中性子星表面での水素原子の位置エネルギーは、 (万有引力を参照)
無限遠において水素原子の位置エネルギー運動エネルギー0なので、力学的エネルギー保存より、
......[]

(b) 生成される陽電子は電子と結合してエネルギーに変換されてしまう、ということは、質量としては残らないということです。鉄原子1個が生成されるときの質量欠損は、
この質量欠損に充当する質量エネルギーが発生するので、水素原子1個あたり発生するエネルギーは、 ......[]

(c) 核融合により生成される鉄原子1個あたりの生成直後の運動エネルギーは、(b)の鉄原子1個生成時の質量エネルギーであって、
高度hまで到達したとき(位置エネルギー)の鉄原子の運動エネルギーとして、力学的エネルギー保存より、
・・・@
より、
整理して、

よって、鉄原子が到達できる中性子表面からの高さの上限は、 ......[]

(d) を鉄原子1個当たりの値で比較することにします。
鉄原子の質量が与えられていないので、質量欠損からエネルギーを求めることができません。
水素原子核は、陽子
1個でできているので、結合エネルギー0です。
鉄原子核は、陽子
26個と中性子30個からできているので、水素原子の陽子30個が中性子+陽電子に変換されています。また、図2の質量数56の付近の核子1個あたりの結合エネルギーの値は、約8.8[MeV]です。56個の核子を有する鉄原子1個では、[MeV]です。水素原子核56個が鉄原子核1個に変換される際に、この結合エネルギー分のエネルギーが発生します。
一方、陽子
1個が中性子1個+陽電子1個に変換される際に、陽電子は電子と結合してエネルギーに変換されるので、陽子1個と電子1個が結合して中性子になると考えます。このときの質量の増加は、です。この質量増加に対応する質量エネルギーは、
[J][MeV]
陽子1個+電子1個が中性子1個に変換されるときに、より高いエネルギーの状態になるので、0.781[MeV]質量エネルギーが使われます。
従って、核融合において鉄原子
1個が生成されるときに発生するエネルギーは、
[MeV]

定常的に放射されているエネルギーは、(a)で求めた水素原子1個のエネルギー56個分に相当し、
[J][MeV]

......[]

(e) (c)で求めた鉄原子の到達高度の上限は、
と書けます。(d)よりE469[MeV]です。[m]の場合、[MeV]なので、到達高度の上限は400[m]くらいになります。
[m] (地球の半径)の場合、[MeV]なので、@の左辺が正になり、hの値にかかわらず成立します。これは、鉄原子の到達高度に制限がないことを意味します。

中性子星と白色わい星での物質の放出現象の違いは、中性子星では半径が小さいために生成された物質に働く万有引力が強くて物質が中性子星を脱出できないが、白色わい星では半径が大きく生成された物質に働く万有引力が弱いために物質が白色わい星を脱出できることによる。
......[]

(d)[MeV]という結合エネルギーは、26個の陽子と30個の中性子がバラバラに存在しているときから、鉄の原子核が生成されるときに減少する質量による質量エネルギーです。は、陽子と電子がバラバラに存在しているときから、中性子が生成されるときに増加する質量による質量エネルギーです。結合エネルギー質量欠損に対応するエネルギーなので、質量が増加すると言うことは結合エネルギーがその分だけ減ると言うことです。言い換えると、結合エネルギーの総和が小さい方から大きい方に移行する核変換においては、質量の総和が減少するので、質量エネルギーの減少分のエネルギーを取り出すことができるのです。


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