東京工業大学2009年前期物理入試問題


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[1] 質量がmである2つの小さな物体ABを、自然長L,ばね定数kの重さが無視できるばねの両端につける。それを、物体Aが鉛直な壁に接するように、水平な床の上に置く。図に示すように、物体Bに力を加えてばねを自然長から長さlだけゆっくり縮め、瞬時に力を除く。物体Aが壁から離れた後、ばねの中点Pから見て、物体Aと物体Bはそれぞれ単振動する。物体の運動に関する以下の問いに答えよ。ただし、床と壁は平らでなめらかである。
(a) 物体Aが壁から離れるときの、物体Bの速さを求めよ。
(b) 物体Aが壁から離れた直後の、ばねの中点Pの速さを用いて表せ。
(c) 物体Aが壁から離れる時刻をとし、その後、ばねの長さがはじめて自然長Lになる時刻をとする。を求めよ。
(d) 時刻の後、ばねの長さが次に自然長Lになる時刻をとする。時刻におけるばねの長さLlを用いて表せ。
(e) 時刻における物体Aの速さを求めよ。
(f) 時刻に、物体Bに水平方向の撃力を加えたところ、ばねの中点Pが静止した。撃力とは極めて短い時間に物体に作用する力である。撃力の力積の大きさIを用いて表せ。
[解答へ]


[2] 図1のように、真空中に、面積S2枚の水平な金属円板からなる平行板コンデンサーがある。平行板コンデンサーの下電極はつねに固定されているが、上電極は鉛直方向のみに自由に動くことができる。下電極の位置を基準とし、鉛直上向きを正とする座標xを考える。上電極の質量をm,重力加速度の大きさをg,真空の誘電率をとする。ただし、電極間の距離はつねに金属円板の半径より十分に小さいものとする。また、電極の厚さ、および電極の振動によって発生する電磁波は無視できるとして以下の問いに答えよ。
[A] 平行板コンデンサーの上下電極に、それぞれおよび ()の電荷を蓄え、はじめに上電極をの位置に外力によって固定した。
(a) 外力を変化させ、上電極を位置からに移動させた。コンデンサーに蓄えられている静電エネルギーの変化を求めよ。
(b) 静電エネルギーの変化をもとに、上電極の位置がのときに、極板間に働く静電気力の大きさを求めよ。
(c) 2のように、ばね定数kの重さが無視できるばねを上電極に取り付け、ばねの上端を固定した。このとき、上電極はの位置で外力によって支えられており、ばねは自然長である。上電極を支えていた外力をはずしたところ、上電極は下電極に接することなく単振動をはじめた。上下電極の間隔が最も狭いとき、下電極の電位を基準として上電極の電位を求めよ。ただし、上下電極にはそれぞれおよびの電荷が常に蓄えられており、ばねに電荷が逃げることはないものとする。
[B] 1の平行板コンデンサーの上下電極を完全に放電した後、図3に示すように厚さ,誘電率,面積Sの誘電体円板を、下電極に完全に重なるように置き、電流計と起電力の電池を接続した。さらに外力を用いて、図4に示すように、上電極の位置がからの間で周期Tをもって周期運動するように動かした。上電極は時刻から (n0以上の整数)の間、一定の速度で動いている。電池と電流計の内部抵抗は無視できるものとする。
(d) を満たすある時刻tにおいて、上電極はの位置にあった()。平行板コンデンサーの容量を求めよ。また、平行板コンデンサーの上電極に蓄えられている電荷量を求めよ。
(e) aDに比べて十分に小さいとして、問(d)で求めたの近似値を求めてみよう。問(d)で求めたは、上電極の位置がのときのコンデンサーの容量をとすると、
と書ける。ここでであるので、bDに比べて十分に小さい。そのため、()1よりも十分に小さい。1より十分に小さいz ()に対して成り立つ近似式を使うと
と近似できる。()()を求めよ。
(f) (e)で求めたの近似値を用いて、電流計が示す電流の変化の様子を時刻0からの範囲で答案用紙の解答欄に図示せよ。また、電流計が示す電流の最大値を答えよ。ただし、電池の正極から電流が流れ出すときの電流値を正とする。また、時刻付近(答案用紙中の斜線の領域)における様子は示さなくてよい。
[解答へ]


[3] 図1のように、気球部と機械部で構成される気球がある。気球部は熱を通さない断熱膜でできており、その内部にはnモルの空気が密閉されていて気体の出入りはない。気球部の体積は変化でき、内部の空気と外部の大気の圧力は常に等しい。一方、気球内部の空気(以後、気球内ガスと呼ぶ)に対しては、機械部にある装置によって熱を加えたり奪ったりすることができる。気球は質量の無視できるロープで地上の巻き上げ機につながっており、断熱膜と機械部の体積は無視できるとする。
大気の圧力は地上においてはであり、高さとともに減少する。一方、大気の温度は高さによらず一定の値であるとする。空気は理想気体と見なしてよい。また、気体定数を
R,温度をTとすると、1モルの空気の内部エネルギーuとしてよい。
気球が押しのけた領域にあった大気の平均密度は、気球の中心の高さにおける大気の密度で近似できるものとする。空気
1モルあたりの質量をmとし、重力加速度の大きさをgとする。以下の問いに答えよ。
(a) 圧力がpで温度がの大気の密度(単位体積あたりの質量)ρを、pRmを用いて表せ。
(b) 1のように、気球を地上の台上に固定したまま気球内ガスを加熱したところ、気球内ガスの温度がになったとき気球に働く浮力と重力がつり合った。このとき、気球内ガスを除いた気球の質量(断熱膜と機械部の質量の和)Mを、nmを用いて表せ。
(c) 気球を地上の台上に固定したまま気球内ガスをさらに加熱し、温度をにした。温度の状態から温度になるまでに加えられた熱量Qを、Rnを用いて表せ。
(d) (c)で温度がのときのロープの張力はどれだけか。問(b)の結果も用い、張力をgmnを用いて表せ。
(e) (c)で温度をにしたあと、図2のように巻き上げ機をゆるめて気球をゆっくりと上昇させる。すると気球はある高さまで上昇し、つり合って止まった。このときの気球内ガスの温度を求めよ。
(f) (e)の上昇過程で、気球内ガスが外の大気に対してした仕事を求めよ。
(g) (e)の過程ののち、ロープを切り離す。その後、気球内ガスから熱をゆっくりと奪い、気球をゆっくりと下降させて地上の台上にもどした。このときの気球内ガスの状態変化はどのようなものか。次の5つの選択肢の中から1つを選んでその番号を記せ。
@ 定積変化, A 定圧変化, B 等温変化, C 断熱変化, D @〜Cのどれでもない
[解答へ]




各問検討

[1](解答はこちら) 単振動の問題ですが、相対運動として単振動を見ても解答できるし、エネルギー保存や運動量保存に着目しても解答できます。大学に入ってからのことを考えると、単振動と見て解答できるようにしておく方が良いと思いますが、入試の解答としては、エネルギー・運動量で解答する方がラクです。この問題に限らず力学の問題一般についても、運動方程式を解くよりも、エネルギー・運動量に着目する方がラクに解答できます。本問の解答で両者を併記したので、比較してみてください。
どちらで解答するにせよ、単振動の振動中心において、また、振動端において、
2物体の運動がどういう状態にあるか、速度はどうなっているか、ばねはどうなっているか、半周期で運動が逆転し、1周期で元に戻る、ということが、把握できるようになっていないと、こうした問題では解答することができません。頭の中で、2物体の運動の状況が目で見ているかのように想像できるようになっていて欲しいのです。物理では、学校での実験だけでなく、自分でもばねを作っておもりをつけて運動させてみる、という実践的な努力を続けておくことが大切です。
この問題でもそうですが、物理の入試問題では、意図的にぼやかした問題文の書き方をします。「物体
Aは壁から運動量0で離れる」と書けばはっきりするのに、「瞬時に力を除く」という問題文の書き方をして、問題文から物理現象を思い浮かべる能力を見ようとするのです。単に国語の読解力というだけでなく、文章の世界から、実体的な「物」の動きを想像する想像力が問われています。特に本問の最後の(e)(f)では、運動の状況をイメージできたかどうかということが問われているだけで、計算の必要すらない問題になっています。物理は決して公式やパターンを暗記する科目ではない、ということを理解して頂きたいと思います。


[2](解答はこちら) コンデンサーの関する標準問題で、若干、力学との融合の部分もありますが、目新しい内容もなく物理的な考察を必要とする部分もなく、親切な誘導がついているので戸惑うことなく解答できると思います。
本問を解答するのに必要な知識は、コンデンサーの基本公式:に、直列接続の合成容量の公式、それに、極板を引き離そうとする外力のする仕事が静電エネルギーを増大させるという考え方、また、,という基点的事項ばかりです。教科書がしっかり理解できていれば充分に解答可能なはずです。
これから、物理の受験準備を始めよう、という方は、まずは、こうした問題を解けるようにすることを第一目標にしましょう。そして、理工系最難関の東工大でさえ、こうした標準的な問題を出題している、ということを、よく頭に入れておいてください。暗記すべき公式や基礎事項が少ない高校物理も、入試問題が扱う範囲は非常に広いので、すべてのパターンの問題を習熟することは不可能です。難関私大の入試問題の中には高度な取り扱いを必要とするような問題も散見されるのですが、たとえそのような問題であっても、まずは、基礎学力を身につけて、教科書に書かれている基礎事項に基づいて考察を進める、ということを頭に叩き込んでおいて頂きたいと思います。物理法則に基づいて問題を解いていく物理では、一に基本、二に基本、三にも四にも五にも基本です。



[3](解答はこちら) 本問は物理的な考察の必要な部分もあり、[1][2]と比べるとレベルの高い問題です。「気球」の問題で気体の密度が関係するので難しく感じるかも知れませんが、気球の問題としては浮力と密度の関係が把握できていれば決して難しいわけではありません。むしろ、最後の方で気体の問題として考え込んでしまうところが出てきます。
(g)では、結局、温度一定の大気中を力のつり合いを保ちながら下降するので、等温変化になるのですが、力のつり合いの成立と断熱変化の意味を正しく捉えることができるか、ということが問われています。(d)(e)はそこに気づかせるための誘導になっているのですが、気球内ガスが、大気と直接熱をやりとりするのではなく、大気とは断熱になっていて、別のメカニズムで大気との力のつり合いを成立させながら熱を奪われていて等温変化をする、というところは、力のある受験生でないと(d)(e)が誘導になっていることにさえ、なかなか気づけないかも知れません。
日頃から、物理に限らず、数学などでも積極的に難問にチャレンジし、疑問点は残さずに考え尽くしておく、というクセをつけておかないと、こういう問題でいきなり、深い物理的考察を求められても、その場での対応は難しいでしょう。
また、気体の問題にもかかわらず、状態方程式や熱力学第一法則が前面に出てこないのですが、
(b)(d)では力のつり合いの式から結果を導くために「状態方程式」が、また、(f)では、「断熱変化」というところから気体のした仕事を考えるために「熱力学第一法則」が、それぞれ重要な働きをしていて、気体の基礎がしっかりできていなければ解答できない問題になっています。決して高級な受験技巧をあおるわけでもなく、重箱の隅をつつくわけでもなく、気体分野の基本から物理的に考察するようにできているところが、この問題の優れているところです。



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