東工大物理'20年前期[3]

液体状態の水(以下では単に水と呼ぶ)をシリンダーに密封して圧力一定のもとで加熱していくと、水の温度が上昇し、ある温度に達すると水から水蒸気への変化(蒸発)が生じる。この温度を気液共存温度(沸点)と呼び、この温度においては水と水蒸気が共存できる。気液共存温度において一定量の水をすべて水蒸気に変化させるのに必要な熱量を蒸発熱と呼ぶ。この気液共存温度と圧力の関係が図1中に気液共存線として示されている。図1の縦軸は圧力、横軸は温度であり、気液共存線の左側の領域では水、右側の領域では水蒸気となり、気液共存温度は圧力の増加とともに上昇する。
以下、本問では、水の
1molあたりの体積(すなわちモル体積)とし、は温度と圧力によらず一定とみなせるものとする。を一定としたので定積モル比熱と定圧モル比熱は等しいため両者を区別せず、水のモル比熱をとする。水の1molあたりの蒸発熱をLとし、以下で考える温度範囲では、Lおよびは温度と圧力によらず一定とみなせるものとする。圧力における気液共存温度をそれぞれ(絶対温度)、気液共存状態での水蒸気のモル体積をそれぞれとする。また、ピストンの質量は無視できる。ピストンとシリンダーは十分に断熱されており、シリンダー内部に設置された加熱装置から加えられる熱を除き、周囲とシリンダー内部との間で熱の授受はないものとする。さらに、ピストン、シリンダー、加熱装置など、水と水蒸気以外の物体の熱容量は無視できるものとする。

[A] 図2(i)のように滑らかに動くピストンを持つシリンダー内部に水1molが密封されており、圧力をで一定に保ちながら、このシリンダー内部の加熱装置でゆっくり加熱し、熱量を加えた。

(a) (i)の状態の水の温度は(ただし)であった。次の文章中の空欄()()に当てはまる数式を答えよ。
の場合は、シリンダー内には水のみが存在する。の場合はシリンダー内には図2(ii)のように水と水蒸気が共存し、そのときの水蒸気の物質量(モル数)となる。の場合は、図2(iii)のようにシリンダー内は水蒸気のみとなる。

(b) 次に、圧力,温度の水蒸気1molあたりの内部エネルギーと水1molあたりの内部エネルギーとの差について考える。図2で示したピストンとシリンダーを用いて圧力,温度の水1molを圧力と温度が一定のもとで完全に水蒸気に変化させるとき、ピストンが外部に対してする仕事はで与えられる。この時に加える熱量はLであること、および熱力学の第1法則は気体に対してのみならず、液体や液体・気体間の状態変化においても成り立つことを考慮して、水蒸気と水の1molあたりの内部エネルギーの差を求めよ。

[B] 3(iv)に示すように仕切り壁のある密閉容器があり、仕切り壁の下側は圧力,温度の水1molで満たされており、仕切り壁の上側は真空になっている。この仕切り壁を取り除いたところ、水の一部が蒸発し、充分時間が経過した後、図3(v)のように容器内が圧力と温度の一様な気液共存状態となった。その圧力と温度はいずれも(iv)の状態より低いであった。なお、容器は外部に対して充分に断熱されているとする。

(c) 次の文章は(v)の状態における水蒸気の物質量の求め方を説明したものである。空欄()()に当てはまる数式を答えよ。

この場合、外部との間で熱や仕事の授受がないので、熱力学の第1法則より、(iv)の状態と(v)の状態の内部エネルギーは等しい。したがって、(iv)の状態と(v)の状態の水1molあたりの内部エネルギーをそれぞれ(v)の状態の水蒸気1molあたりの内部エネルギーを(v)の状態における水蒸気の物質量をxとすると、が成り立つ。他方、は水の比熱を含む式で与えられる。は前問(b)の結果を考慮してLを含む式で表すことができる。これよりxを内部エネルギーを用いない式で表すととなる。

[C] 図4(vi)のように滑らかに動くピストンを持つシリンダー内部が圧力,温度の水1molで満たされている。ピストンの外側の圧力はである。ピストンの外側には、ばねが取り付けられており、(vi)の状態では、ばねは自然長である。ここで、ばねは天井に固定されており、シリンダーは床に固定されている。次にピストンの外側の圧力をで一定に保ちながら、ある時間、加熱装置でゆっくり加熱したところ、水の一部が蒸発して図4(vii)のようにシリンダー内は圧力と温度が一様な気液共存状態となった。その圧力と温度はであった。ばね定数をk,シリンダーの断面積をAとし、以下の問に答えよ。ただし、ばねの質量と太さは無視できるものとする。

(d) (vi)の状態から(vii)の状態への変化に伴うピストンの移動量をdとする。(vii)の状態における力のつり合いを考えて、dを求めよ。

(e) (vii)の状態における水蒸気の物質量xAdのうち必要なものを用いて表せ。

(f) (vi)の状態から(vii)の状態まで変化する際に、シリンダー内での水の蒸発にともなってピストンが外側に対して仕事をした。その仕事WdAkのうち必要なものを用いて表せ。

(g) (vi)の状態から(vii)の状態まで変化する際に加えた熱量QWxLのうち必要なものを用いて表せ。


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解答 「気液共存線」などと見慣れない言葉が出てくるので、一見して難問のように見えますが、解くに当たって「気液共存線」が重要な意味を持つわけではなく、問題文が親切で実は大したことはありません。試験会場で行き詰まるときには、出題者の意図がつかめるまで何度も問題文を読み返すようにします。
特に本問では、問題文から、蒸発熱
Lが温度と圧力によらず一定なので、気液共存線上で、(圧力,温度)が、(b)でも、(c)でも、(g)でも、同じ考え方が使えることを読み取る必要があります。

[A](a)() 図1によると、温度(),圧力では気液共存線の左側にあり、図2(i)では全て水です。水の比熱なので、水のまま温度がと変化するのに必要な熱は、です。以下だと、水は温度上昇するだけで蒸発することなく水のままです。よって、 ......[]

() を超えると、超えた分の熱は水の蒸発に使われます。1molの水が全て蒸発するのに必要な熱はLなので、以下だと、水の全量が蒸発することはできず、水と水蒸気が共存する状態になります。よって、 ......[]
を超えると、水は全て水蒸気となり、水蒸気の温度が上昇を始めます。

() 熱L1molの水が蒸発します。熱のうちを超えた分、つまりの熱でxmolの水が蒸発するとして、
......[]

(b) (i)の水の体積は(iii)で気液共存温度,圧力一定の下での水蒸気の体積はなので、(i)(iii)でピストン下の体積は増加し、外部に対して仕事をします。(i)で水1mol内部エネルギー(iii)で水蒸気1molの内部エネルギーは(i)(iii)の内部エネルギーの変化はです。(i)(iii)で水の全量が水蒸気になるので加えられる熱はL熱力学第1法則より、
......[]

[B](c)() (v)で水蒸気の物質量(モル数)xなので、水の物質量はです。(v)の内部エネルギーは、水蒸気が,水がで、合わせて、,これが、問題文より(iv)の内部エネルギーと等しいので、
......[]

() 温度がのときの水の比熱の式より、(iv)(v)1molあたりの内部エネルギーの差は、 .....[]

() ()の結果より、
 ・・・@
2(v)の状況で圧力は,温度は,そこで水と水蒸気が共存している状況において圧力が(b)(v)と考え、(b)の結果で、とし、1molの水の体積はなので、
これと@と()の結果より、
......[]

[C](d) (vii)において、ピストンに働く力は、鉛直下向きのばねの弾性力,鉛直下向きの外側の圧力による力,鉛直上向きに水蒸気がピストンを押す力です。これらの力のつり合いより、
......[]

(e) xmolの水蒸気の体積はmolの水の体積は(vii)の水蒸気+水の体積は、(vi)の水の体積からだけ増加しており、
......[]

(f) ピストンが外側に対してした仕事は、水蒸気が外側の圧力に対抗してピストンを押す力のした仕事と、ばねに対してした仕事(位置エネルギーを参照)の和で、
......[]

(g) (vi)(vii)の内部エネルギーの変化をとして、熱力学第1法則より、
内部エネルギーは(vi)では水の(vii)の内部エネルギーは、水、水蒸気の1molあたりの内部エネルギーをそれぞれとして、
 ・・・A
2(vii)の状況で圧力は,温度は,そこで水と水蒸気が共存している状況において圧力が(b)(vii)と考え、(b)の結果で、として、,これを用いてAは、
よって、内部エネルギーの変化は、と変化しているので、
ここで、温度がのときの水の比熱の式より、
よって、

......[]



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